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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)316号 判決 1948年12月27日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人栗本稔の上告趣意について、

憲法第三七條第二項は「刑事被告人は、すべての證人に對して審問する機會を充分に與えられ、又公費で自己のために強制的手續により證人を求める權利を有する」と規定している。右規定の公費で自己のために、證人を求める權利を有するという意義は、刑事被告人は、裁判所に對して證人の喚問を請求するには、何等財産上の出捐を必要としない、證人訊問に要する費用、すなわち、證人の旅費、日當等は、すべて国家がこれを支給するのであって、訴訟進行の過程において、被告人にこれを支辧せしむることはしない。被告人の無資産などの事情のために、充分に證人の喚問を請求するの自由が妨げられてはならないという趣旨であって、もっぱら刑事被告人をして、訴訟上の防御を遺憾なく行使せしめんとする法意にもとずくものである。しかしながら、それは、要するに、被告人をして、訴訟の當事者たる地位にある限度において、その防御權を充分に行使せしめんとするのであって、その被告人が、判決において有罪の言渡を受けた場合にも、なおかつその被告人に訴訟費用の負擔を命じてはならないという趣意の規定ではない。すなわち、論旨のいうように、訴訟に要する費用は、すべてこれを公費として国家において負擔することとし、有罪の宣告を受けた刑事被告人にも訴訟費用を負擔せしめてはならないという趣意の規定ではないのである。裁判確定の上で、その訴訟に要した費用を何人に負擔せしめるかという問題は、右憲法の規定の關知しないところであって、これは、法律をもって、適當に規定し得る事柄である。刑事訴訟法は、訴訟費用は刑の言渡を受けた被告人をして負擔せしめることを原則とし、また、刑事訴訟費用法は、證人の喚問に要する費用をもって公訴に關する訴訟費用とする旨を規定しているのであるが、これらの規定は何ら右憲法の條項に違反するところはないのである。

であるから、本件第二審判決が、右刑事訴訟法等の規定に從って、證人の喚問に要した費用を含む本件訴訟費用を被告人の負擔としたのは正當であり、原判決がこれを以て憲法違反の措置にあらずと判斷したのもまた正當である。論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法第四四六條に從い、主文のとおり判決する。

右は裁判官全員の一致した意見である。

裁判官庄野理一は、退官につき合議に關與しない。

(裁判長裁判官 三淵忠彦 裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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